クラシックカメラ銘々伝
日の丸コンタックス レチナ賛歌 コニレットvsフジペット 孤独なライカ テッシナの秘密 ミノックス秘話 ニコン神話  I love EXA 
   


謎のキエフ10シリーズ
 mir20
 
 Kiev10シリーズ

キエフ10シリーズは、旧ソ連のウクライナ共和国の首都キエフにあるアーセナル社の製品である。大祖国戦争(第2次世界大戦)で勝利したソ連軍は、ドイツの光学の名門カール・ツァイスと、ツァイス・イコンの工場を接収、設備と技術者をキエフに運び込んだ。軍需工場から転換した民生アーセナル社の誕生である。そこでソ連版コンタックスのキエフが生産された。レンズもカメラも当時は世界最先端であった。

キエフ10は1964年にアーセナル社初の一眼レフとして誕生したが、1965年3月、アレクセイ・レオーノフとともにボスフォート2号に乗って、宇宙遊泳をしたカメラだといわれている。宇宙へ飛んだカメラといえば、1962年にフレンドシップに乗って、グレン中佐が地球を写したミノルタ・ハイマチックが有名だが、このキエフ10も、ソ連の輝かしい栄光をになっている。

ソ連製のカメラといえば、西側諸国のデッドコピーが多く、あまり高い評価はされていないのだが、このキエフ10は、突然変異とも思える独創的なカメラである。

まず、フォーカルプレーンシャッターを搭載する高級一眼レフとしては、世界で初めてシャッター優先の自動露出(AE)を実現している。西側で最初に登場するのは、1965年12月のコニカ・オートレックスだから、約1年先行しているのだ。大きなセレン光電池をペンタ部前面に置いて、デザインの強烈なアクセントになっている。

このカメラに搭載されたシャッターが、また極めて独創的で、古今東西こんな不思議なシャッターは見たことがない。6枚の金属製の羽が扇形に回転する。3枚の前膜が回転して扇のように折りたたまれると、後膜3枚が時間差で追いかけて、展開する。つまり三角形のスリットが、フィルム面を半円形に走るわけだが、何とも不思議なメカニズムである。

キエフ10の金属シャッター

おまけにこのシャッターは、反射防止処理を施していない。金属が光ったままなのである。なにより光線漏れを嫌うカメラの構成部品としては、なんとも危ないメカなのだが、本当にこれで良いのだろうか。

レンズマウントは独特なバヨネットマウントで、絞り制御はボディー側で行う。レンズ側に絞りリングはない。このキエフ10と後継のキエフ15だけの、特殊マウントである。

 Kiev 10 オートマット (1964年)
Kiev10 automat+Herios-81 50mm F2

総重量1022gとずっしりと重い。ソ連の貫禄を感じる。ソ連の国力が充実していた時代で、極めて複雑なメカニズムになっているのだが、今となってはまともに動く個体は極めて少ない。

AE機構は、セレン光電池の指針を階段状のカム、いわゆる段カムで機械転換して絞りをコントロールする一般的な段カム方式だが、このカメラはややアンダー気味であった。

 シャッターダイヤル

軍艦の左側にシャッターダイヤルがある。内側にフィルム感度設定のリングがある。二つの小さなポッチで、感度リングを回すのだが、大変堅くて回しにくい。黒文字でDIN値、赤文字でGOST(ГОСТ)値が表示されている。シャッターの15と30の間にある白い線に、DIN感度を合わせる。GOSTは反対側の赤線で読み取る。

DINもGOSTもなじみが無いが、DINはドイツ規格、GOSTは旧ソ連の規格だ。ちなみにISO100はGOST90である。

 ISO GOST( ГОСТ DIN 
 100  90  21
 200  180  24
 400  350  27


 絞りダイヤル
キエフ10シリーズは自動絞りだが、絞り機構はボディー側にあって、レンズには絞りリングが無い。 に合わせれば、シャッター優先の自動露出になる。このダイヤルも回しにくい。

 フィルム送り確認窓
 
キエフ10シリーズの最大の欠点は、フィルム送りの不安定さだ。回転するシャッターのおかげで、スペースが無くなり、フィルムを送るスプロケットギヤが上側にしかついていない。それで、フィルム送りが不安定になるのだ。

シャッターダイヤルの下にフィルム送り確認窓があり、フィルムを巻き上げると、白い表示が回転して送りを確認出来る。ただ、これも回転しない個体がある。その時はボディー下部にある巻き戻しレバーが、回転しているかどうかで確認出来る。 

 
 Herios-81 50mm F2
 
 Kiev 10 automat+Herios-81 50mm F2

標準レンズのヘリオス81をつけて小岩へ出かけた。
(クリックすると大きくなります。)
江戸川河川敷にて

特殊な形状のシャッターのおかげで、フィルム送りのスロットルギヤが上側にしかつけられない。だからフィルム送りが不安定だ。慎重に装填しないと、空回りしてしまう。

心配していたとおり、シャッター膜の影が薄く映り込んでいる。そりゃそうだ。ピカピカに光っているのだもの。

Mir-20 20mm F3.5 
 
 Kiev10 automat+Mir-20 20mm F3.5

キエフ10シリーズは、あまり売れたとは思えない。中古市場でもほとんど見かけないが、なぜかレンズはかなり流通している。中でもこのミール20は貴重な超広角レンズで、ご覧のような大口径レンズだが、価格は意外に安い。キエフ10シリーズにしか付かない特殊マウントなので、人気が出ないのだろう。

ミール20はKMZ社製のM42マウントのものが有名だが、このレンズは、ツァイスの技術を継承するアーセナル社の製造である。 7群12枚という贅沢な仕様で、キエフに付けると貫禄十分である。

 (クリックすすると大きくなります。)
 
江戸川河川敷にて
シャッターの影の映り込みが気になるなあ。画像は超広角の迫力満点である。

 葛西臨海公園  大観覧車
シャッターを1/250にしたら、写り込みはなくなった。何故だろう。謎は深まる。 
 
佐原の樋橋 外川駅
2014年10月、AJCCの仲間と佐原、銚子を旅した。連続台風が去って、抜けるような青空に恵まれ、思い出深い旅になった。 

 近接撮影  スナップ
最短撮影距離は20cmと大きく寄れる。被写界深度が深いので、スナップにも好適である。

 
 
Mir-1 37mm F2.8 
Kiev10 automat+Mir-1 37mm F2.8 

ミールでもっとも使いやすいレンズが、このミール−1だ。37mmという中途半端な焦点距離が、町のスナップにはちょうど良い。
 
 (クリックすると大きくなります。)
 風車のある風景  噴水公園
 
 
   
 寂しい公園  マンホール
 

 
Jupiter11 135mm F4 
  
 Kiev10 automat+Jupiter11 135mm F4

望遠レンズの定番ジュピター11だ。コンッタクス用ゾナー135mmそのものだ。 従って写りは折り紙付き。このレンズはレンズの中に細かいキズがあって、多少、悪影響はあるのだが、十分に使い物になる。

 (クリックすると大きくなります。)
   
 花の中で  都会
   
   
 浜離宮のコスモス  江戸川のコスモス
 

 
Kiev 15 Tee (1974年) 
 
 Kiev 15 Tee+Herios-81 50mm F2

キエフ10の10年ぶりの後継機である。キエフ15はキエフ10をTTL仕様にしたモデルである。キエフ10に比べて、使い勝手は格段に良くなっているが、世界はとっくにTTLの時代に入っていて、世界初のAEフォーカルプレーン機であったキエフ10のようなインパクトはない。

セレン光電池に代えて、CdSのTTL測光とした。測光精度は格段に向上した。絞りリングを鏡胴脇から、ボディー上部に移し、操作性を大きく向上させている。
 絞りリング


フィルム感度設定ダイヤルも大きく改善され、使いやすくなった。
 シャッターダイヤルと感度設定リング
シャッターダイヤルの内側に感度設定リングがあるのはキエフ10と変わらないが、感度リングは黒いノブで回すので、非常に使いやすくなった。感度表示はDINが無くなって、GOST値だけの表示となった。

シャッターと絞りの間に小さな小窓が開いていて、レンズの開放絞り値をセット出来る。

絞りリングの値は、上からも確認出来て便利だ。上の黒いボタンは電池チェッカーだ。下の緑と赤のポッチとレバーは、なんだろう。普段は緑にしておくと適正露出が得られるが、赤にするとどういう効果になるのかよくわからない。 

総重量はキエフ10より重くなって、1098gと相変わらず超弩級である。使用電池は水銀電池だが、V625Uで代用出来る。レンズマウントはキエフ10と同じバヨネット式だ。


Herios-81 50mm F2

キエフ15に標準レンズのヘリオス81 50mm F2をつけて、いつもの小岩へ出かけた。ヘリオス81の最短撮影距離は50cmだから、かなりの近接撮影が可能だ。
 
   (クリックすると大きくなります。)
江戸川にて なにもない菖蒲園
パンパスグラス 日本のススキ
コスモス 
   

 Mir-1 37mm F2.8
 
 Kiev15 Tee+Mir-1 37mm F2.8

キエフ15に名レンズとの評判が高い37mmのミールをつけてみた。ブラッセル博覧会でグランプリを取ったという伝説のレンズだ。 37mmという中途半端な焦点距離だが、これがけっこう使いやすい。

最短撮影距離も24mmと、近接撮影には力を発揮する。解像度、色再現も申し分ない優れたレンズである。
 (クリックすると大きくなります。)
 
江戸川にて 石灯籠
パンパスグラス コスモス1
コスモス2 コスモス3

Mir20 20mm F3.5
 
Kiev15 Tee+Mir-20 20mm F3.5 

やはりキエフ15には、この20ミリレンズがよく似合う。大柄なボディーにしっくり収まる。超広角にもかかわらず、ひずみの無い素直な写真が撮れる。 

 (クリックすると大きくなります。)
 
駅の風景 荒川電車

露出計は生きているのだが、オートで撮るとかなりアンダーになる。フィルム感度を思い切って低く設定して、何とかモノになった。

すがもん ケロちゃん

バラ2題
再近接撮影距離は20cmだ。思い切り寄って撮ってみた。20mmの超広角はピントが合わせにくい。何とかモノになったバラの花。


クラシックカメラの物語


ご感想などお寄せください
Email komatsu@st.rim.or.jp