18.安房国  千葉県安房郡  JR内房線館山駅 98.05.03 02.09.14



安房国は四国の阿波の神が、海を渡ってきて作った国だという。
房総半島の南にあって小さな目立たない国だが、江戸時代の曲亭馬琴の南総里見八犬伝により、
一躍全国区になった。


安房国府


安房国の国府は未だ遺跡が見つかっていない。しかし、和名抄に平群郡とあり、現在安房郡三芳村
に府中という集落があるので、そこに間違いなかろうという。
昭和63年(1988)千葉県教育委員会が、この地の宝珠院地区を発掘調査したが、国府の遺構は発
見されなかった。

宝珠院観音堂 十一面観音像
2.16mのヒノキの一木造り。
平安時代後期の作で県指定文化財。



鶴谷八幡宮(安房総社)

元八幡神社

国府があったと推定されている三芳村府中の宝珠院の近くに、安房国総社とされた元八幡神社がある。
この宮が後に館山市内に遷座して、現在の鶴谷八幡宮となる。毎年9月14日の国司祭には、この神社
の井戸から、水を汲んで神前に捧げられる。

元八幡神社 国府祭に供される神井戸


館山市内にある鶴谷八幡宮は立派な社である。

昭和50年(1975)には、鎮座一千年を祝った。

鶴谷八幡宮本殿
享保四年(1717)の建立
拝殿向拝の格子天井
安房の彫刻師後藤利兵衛義光作の百態の龍




八幡祭(やわたんまち)


毎年9月14,15日の例大祭は、「国司祭」とも「安房六所祭」とも呼ばれ、
国中の主要な11の神社の神輿が、この八幡社の境内に勢揃いする。
面白いのは祭をマツリと言わず、マチということだ。これは相模の「国府祭」
が、やはり「コウノマチ」と呼ばれるのと同じだ。

朝6時半 一之宮安房神社を出御する神輿
                (安房神社橋本権禰宜提供)


14日朝11時、祭りは元八幡の境内で静かに厳粛に始まった。


元八幡神社の神井戸
ここでのお水取り神事が祭りの始まりである。
お水取り神事
氏子の代表が井戸から水をくみ上げ、
神職の桶に移す。

祝詞奏上 国司の祭絶ゆることなき続き、縁故深きこの
宮の御手洗の水をくみ取り、神前に供えると
の祝詞である。

鶴谷八幡の大鳥居
館山の町は祭り一色だ。
本殿前でもむ州宮神社の神輿
安房神社の天太玉命の妻神だ。

一之宮安房神社の暴れ神輿 暴れ回る安房神社の神輿

子供神輿も堂々と参加 山荻神社の先頭を行く子供達

今では、館山市をあげての盛大な祭りであるが、一之宮が参加するようになったのは、近世になって
からともいわれている。この祭りの中心をなす「国司祭」が、一之宮安房神社で行われるのも興味深い。

この日、八幡の境内に集まる神輿は、安房神社、鶴谷八幡宮、洲宮神社、下立松原神社、手力雄神社、
山宮神社、山荻神社、莫越山神社、木幡神社、高皇産霊神社、子安神社の11社。さらに、神明神社、
諏訪神社などから山車も出る。




安房国分寺


府中から南に下ると、安房国分寺に到る。

昭和五一年〜五三年(1976〜1978)に発掘調査が行われ、金堂跡の基壇が確認された。
軒丸瓦や三彩獣脚などが出土したが、国分寺特有の伽藍は確認されていない。はじめから
国分寺として建てられたのではなく、既存の寺院を充てたのではないかとの説もある。

安房国分寺入り口 国分寺山門
現在は日下山国分寺と号する真言宗の寺。

薬師堂 金堂跡の基壇



安房神社(安房国一之宮)


安房国一之宮は安房神社である。安房国草創の物語は、この安房神社から始まる。

天照大神が天の岩戸に隠れたまいし時に、天児屋根命(藤原氏の祖)と天太玉命
鏡を大神に見せて、岩戸から誘い出したと古事記に書かれている。この天太玉命が
安房神社の祭神である。古事記には布刀玉命と表記される神である。

天太玉命の孫の天富命(あめのとみのみこと)が、四国の阿波国忌部族の一部を割
いて房総半島の南端、すなわち現在の安房神社のあたりに至り、ここを拠点に房総
の開拓を始める。忌部氏は斎部氏とも書き、神事を司る氏族であった。

安房の特産物が「調」として都に運ばれた時につけた荷札が、平城京跡から発掘さ
れたが、その木簡には上総国阿波郡片岡里と記されている。上の言い伝えを実証
する史料である。


桜満開の安房神社
      (安房神社橋本権禰宜提供)
安房神社の神官のみなさん
      (安房神社橋本権禰宜提供)


置炭・粥占神事
1月14日に行われる。(安房神社橋本権禰宜提供)
例祭祓い所
       (安房神社橋本権禰宜提供)

安房神社大鳥居
右の神社名を刻んだ碑は東郷平八郎の書
拝殿
コンクリート造りなのがちょっと残念

本殿
古式ゆかしい平入りの神明造り
千木の先端が水平に切られる内削ぎなので
女神かなっと思ったが、神職さんは単純な間
違いだという。
下の宮
天富命を祀る。
忌部氏を率いて四国阿波国から渡ってきた。




おまけ

南総里見八犬伝


安房は南総里見八犬伝の舞台である。

江戸の文豪曲亭馬琴が、文化11年(1814)から28年の年月をかけて書いた長編小説である。

滝田城主里見義実は館山城主安西景連に攻められ、愛犬八房に、この危難を逃れれば、娘の
伏姫を与えるとの約束をしてしまう。八房は大いに働き敵を破り伏姫とともに富山の洞窟にこもる。

姫を取り戻しに来た許婚の金碗大輔(かなまりだいすけ)は、八房を撃ち殺し伏姫を連れ戻すが、
姫は自害して果てる。この時、姫の身から八っつの玉が飛び散った。この玉が八方へ飛んで、仁、
義、礼、智、忠、信、孝、悌の霊玉を持つ八犬士が登場してくる。
血湧き肉躍る大活劇の幕開けの場が滝田城だ。

滝田城へ登ってみた。さみしい山で登っているのは私一人。急坂を20分ほどあえぎながら登ると、
突然視界が開けた。そこには八房に乗った伏姫が居た。

八房と伏姫の像 展望台。安房国が一望のもとだ。



安房国地図


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