ソ連の記憶 ドイツの名機 粋なフランスカメラ 米国のカメラ事情
デザインのイタリア 珍しいチェコのカメラ 謎の中国製カメラ 個性の英国カメラ

謎の中国製カメラ情報  Seagull  Phenix  Eastar Halina

中国は今や世界最大のカメラ生産国かもしれない。正確な統計がないので、はっきりとはわからないが、日本のブランドでもかなりの数が中国で作られている。オリンパスやFUJIなどは、堂々とMade in Chinaとボディーに刻印してある。日本から台湾へOEM発注をして、さらに台湾から中国へ生産委託するケースも増大しているという。

中国には鳳凰(Phenix)と、海鴎(Seagull)という2大ブランドがある。元々、上海の上海照相機工厰がカメラ工業の始まりらしいが、文化大革命の時、政府命令で江西省に製造設備を移され、新たに江西光学儀器総廠が創立された。江西光学は最初海鴎ブランドを引き継いでいたが、のちに鳳凰に変更した。以来、上海の海鴎、江西の鳳凰の2大ブランドとして発展していく。


中国のカメラ産業が活況を呈しているのは、ごく最近のデジタル時代になってからのことで、ここで紹介している1960年代の銀塩カメラの頃は、ロシアや日本のまねをして、ようやくカメラ産業が勃興し始めた時代である。


海鴎(Seagull)205

中国製の銀塩カメラは、市場にはほとんど出回らない。世界中のクラシックカメラを網羅しているアメリカのマッケオンのカタログにも、わずか数行しか載っていない。国際ネットオークションのeBayで私が見つけたのは、フィンランドからの出品であった。

海鴎(Seagull)205 中華人民共和国制の刻印

元祖海鴎205である。1965年頃に初めて上海で作られた。最初は上海205と名付けられたが、地名のブランドは禁止になったので海鴎と名を変えた。後に江西光学でも生産が始まり、海鴎から鳳凰に名前が変わったが、内容は一緒である。

明るいファインダーはブライトフレームが浮き上がり、パララックスも補正してくれる優れもので、カメラ全体のチープさを補っている。けっこう大柄なカメラで、日本のヤシカのカメラに雰囲気が似ている。

シャッターは1/300までのレンズシャッターで、レンズはシーガル50mm F2.8が付いている。ボディーにある漢字の表示が、中国らしさを際だたせている。軍艦の裏には中華人民共和国制の刻印がある。制は製の簡体字なのだろうか。

(クリックすると大きくなります。)
交番の裏側 駅の時計

レンズはSeagull 50mm F2.8。シャープとは言えないが、なかなかの描写だ。ただ、このカメラの欠点は、フィルムの巻き上げ、巻き戻し機構にある。なんとも頼りないのだ。巻き上げレバーはチープだし、巻き戻しはラチェットが噛んでしまって、動かない。風呂場を真っ暗にして、カメラを開けてフィルムを取り出した。60年ぶりの暗室作業だった。

東京スカイツリー 凸面鏡に取り込まれたスカイツリー

色乗りも悪くない。レンズの性能は満足出来る。しかし、フィルムを1本撮ったら、完全に壊れた。どういうわけかスプロケットが破損してしまった。品質面ではロシアより劣るなあ。


鳳凰(Phenix)205-B

鳳凰(Phenix)205-B

江西光学の鳳凰205である。外観デザインは上の海鴎とほとんど変わらない。レバーとクランクが黒塗装になったぐらいだ。江西光学が鳳凰ブランドを使い始めるのは1983年以降で、私のところに来た鳳凰205-Bは、シリアルナンバーから1991年製だと思われる。1965年の最初の海鴎205から、20年以上も同じデザインを踏襲してきたわけだ。さすがにこのモデルは、Cds露出計を内蔵し、フラッシュ接点はホットシュー化されている。

レンズはPhenix50mmF2.8。3群4枚構成のテッサータイプで、最短撮影距離は0.8Mである。この205シリーズは上海、海鴎、鳳凰と名前を変えながら生産が続けられ、2002年に打ち切られるまで、400万台以上が世に送り出されたという。

(クリックすると大きくなります。)
銀杏1 銀杏2

秋の子供 新宿御苑

プラタナスの並木 紅葉

試写をしてびっくりだ。正直これほどとは期待していなかった。さすがに21世紀まで生産され続けただけあって、素晴らしい写りだ。脱帽である。

しかし、このカメラ、距離計がいかれていて、無限遠で2重像が重ならない。露出計も動いているのか、いないのかよくわからない。それでも、これだけ写れば文句はない。

東方(Eastar)S2

東方(Eastar)S2

東方(Eestar)というカメラは天津照相機廠製である。このカメラは謎の多いカメラだ。東大教授でアサヒカメラのニューフェイス診断室のドクター小倉磐夫氏が、名著「カメラと戦争」の中で、面白いエピソードを紹介されている。

小倉氏は天安門事件の直後に天津市を訪れた。天津照相機廠を訪ねた時に、工場長がコンベア上のカメラを取り上げて、「これはヤシカリンクスです。」と言ったというのだ。「デッドコピーですか?」と小倉氏が聞いたら、工場長は「いや、これは本物のヤシカです。広東の東の方から、正真正銘のヤシカの製造設備を買ったのです。」と言ったそうだ。

ところが、帰国してからヤシカでこの話をすると、確かに香港で製造していた時期はあるが、工場を閉鎖する時に、全部廃棄してきたはずだという。とすると香港の廃棄物処理業者が、廃棄を委託されたヤシカの設備を、天津まで運んでこの工場に売りつけたのだろうか。中国らしい不思議な話である。

(クリックすると大きくなります。)
ただ今497M 向島1丁目

レンズはEASTAR 50mmF2.8。シャッターはB,1~1/300までのレンズシャッター。ファインダーはブライトフレームが入った距離計連動式。上の205シリーズよりほんの少し大きいが、使いやすいカメラだ。

なんとなくシャッターが頼りないのだが、現像してみて驚いた。けっこういけるじゃないか。バカにしたモノではない。色が幾分にじみ気味だが、中国製もまんざら捨てたモノではない。少し見直して敬意を払うことにする。

半船半住 記念撮影

見直して敬意を払ってみたが、距離計がいかれている。二重像が分離しない。まあこんなものだろうと、目測で写した。十分に絞ってやれば、目測でもそこそこの写真が撮れる。それにしても、中国製のカメラは、でかくて重い。なんとなく精密感がないのは、先入観ばかりとは言えないだろう。

ハリーナ35X
HALINA 35X

中国社会は地域性が非常に高い社会だそうである。上海、江西、天津とそれぞれの地域にカメラ工業が興った。しかし、地域は別々でも一党独裁国家だから、すべて中央の指導によるというわけで、上海で生まれたカメラは、各地にそのまま技術移転されて、似たようなカメラが、各地で作られることになる。

そういう意味では、香港は中国とは言えない。しかもこの時代は英国領であった。だから、カメラもかなり異質だ。ハリーナ35Xは1959年Haking社の製造で、ミクロンタ35Xという別名のカメラも、何故か全く同じモデルである。カメラの裏蓋にEMPIRE MADEと刻印がある。大英帝国製というのだろうか。

日本のパックスによく似た小型のカメラだが、軍艦部の赤いマークが印象的な、かわいいカメラだ。レンズはハリーナ45mmF3.5、シャッターはB、25、50、100、200のシンプルなレンズシャッターである。ご覧のように写真うつりはなかなか良いが、手に取ると板金部分はプレスのエッジが甘く、かなりチープな印象である。
(クリックすると大きくなります。)
駅前の風景
シャッターが1/200までしかないので、ISO100のフィルムでも晴天だと16まで絞らなければならない。写りはご覧の通りで、大衆カメラにしては悪くはない。

秋の喫茶店 銀座の竜虎?
距離計は付いてないので、目測だが良い雰囲気の写真が撮れる。

東京スカイツリーは511M 舟形の遊園地
かなりの周辺光量落ちが見られるのは、やむを得ないところか。


中国を代表するカメラ

中国にも高級カメラは存在する。ひとつは、かの江青女史が4人組として権力の絶頂にあった頃、国威発揚のために作らせたというライカM3のコピー紅旗である。

ライカM3は精密機械の絶頂を極め、さすがの日本メーカーもM3のコピー生産を断念し、一眼レフに急速にシフトせざるを得なかった。バルナックライカのコピーはあっても、M3ライカのコピーを作ろうとする無謀な国はなかったのだ。だから、紅旗は世界で唯一のライカM3コピー機であると言って良い。市場に出れば200万円は下らないという、幻のカメラでもある。

もうひとつは上海という名のカメラで、上海照相機が作ったライカコピー機である。ソ連のゾルキーをまねて作ったと自称している。上海照相機は中国のカメラ産業の草分けで、上の紅旗も上海照相機製である。

紅旗20
$23,900
上海58-Ⅱ
$280

紅旗(Red-Flag)20は、1969年新中国建国20周年を記念して計画され、1971年から生産が始まった。製造は上海照相機で、271台が世に送り出されたという。政府の要人、高級官僚、それに新華社や人民日報などのエリートカメラマンに配給されたらしい。

上海(Shanghai)58-Ⅱはバルナックライカのコピー機だが、中国ではソ連のゾルキーのコピー機として知られている。そもそもゾルキーがライカのコピーなのだから、共産圏同盟としてはそういうことにしていたのだろう。しかし、一眼ファインダーのデザインは、まるでキャノンだ。キャノンⅣSbとそっくりだ。これも上海照相機製で、11,888台作られたという。


余録 中国語のカメラ用語

日本語 中国語 注
カメラ 照相机または相机 (机は機の簡体字)
ファインダー 取景器
レンズ 鏡頭
ズームレンズ 変焦鏡頭
レンズマウント 接口
シャッター 快門
絞り 光圏
キャノン 佳能
ニコン 尼康
ライカ 徠卡


クラシックカメラで遊ぶ


国府物語 * オールドレンズを楽しむ * 海中写真 * 妖しいカメラ * ルミックスGF1を5倍楽しむ
友の輪 * 35mmカメラの世界史 * 縄文紀行 * 新東京紀行 * 私の履歴書