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珍しいチェコのカメラ Etareta Vega Optineta Opema

モルダウ川に面した美しい町、プラハ。この町を首都とするチェコ共和国は、数奇な運命をたどってきた。神聖ローマ帝国から、ハプスブルグ家のオーストリア帝国に編入され、第2次大戦の後、つかの間の独立を果たすが、すぐにナチスドイツの軍靴に屈した。第2次大戦後、ようやくスロバキアと連合して独立を果たすが、強大なソ連共産党の支配下に置かれ、民族の自由を奪われてきた。

それでも、東ドイツと並んで東欧圏の工業国として独特の地位を築き、1968年にはソ連の影響を排除する政治改革運動が起こった。プラハの春と呼ばれたが、わずか数ヶ月でソ連軍に侵攻され、あえなく潰え去った。
それから20年、1989年ビロード革命によりようやく共産主義政権と決別、1992年にはスロバキアとの連邦を解消、チェコ共和国が誕生する。



チェコ産のカメラはあまり知られていない。2眼レフのフレクサレット、ライカ型のオペマなどが、わずかに知られる程度である。トップメーカーのメオプタ社は80年近く続く光学機器メーカーで、フレクサレットもオペマもメオプタ製である。ナチスドイツの占領下で、ドイツ軍のために光学兵器を生産したことで、メオプタ社の技術水準は飛躍的に上昇したという。従ってチェコ製のカメラは非常にレベルが高い。

エタレッタ

チェコ製のカメラがほしくて、ネットを検索していたら、Etaretaというカメラを見つけた。エタレッタと読むのだろうか。写真で見る限り、デザインもかっこいいし、作りも良さそうなので手に入れることにした。落札してから10日ほどで、プラハから届いた。

Etaretaと美しくデザインされた筆記体文字と、MADE IN CZECHOSLOVAKIAと端正な細ゴシック体で刻印された原産地表示が、見事な対称をなしていて、このカメラに気品を与えている。

Etareta+Etar
シャッターはETAXAという自社製らしいが、10,25,50,100,200 にBとTというシンプルなもの、レンズはEtar50mm F3.5という沈胴式レンズが付いている。メカ的にはいたって原始的だが、無垢の削り出しかと思わせるほどの、精巧なアルミダイキャストボディーで、このクラスのカメラとしては質感が非常に高い。

1946年から2年間ほど生産されたらしい。メーカーはプラハにあったETAという会社らしいが、メオプタ社を通じて販売されたと思われる。EtarはU、V、Wと進化したらしいが、私のところに来たカメラには、数字の表示がないので、最も古い1946年製だと思われる。

ナチスドイツから解放されて、チェコスロバキアとして独立し、まだ、スターリンの支配も及んでいない頃のカメラなのだ。1948年に共産党政権が出来ると、エタレッタは姿を消してしまう。チェコ民族のつかの間の希望の星のように思えて、たまらなく愛おしくなるのである。

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東京スカイツリー549M ドラム缶

レンズはETAR 5cm F3.5。大変抜けが良くシャープな写りだ。色の再現も自然で、すっきりしている。ボヘミアングラスの産地だからかと思ったが、ボヘミアングラスは光学ガラスには向かないそうだ。

レンズは沈胴式なので要注意。前に引っ張り出して、逆時計方向に少し回すとクリックされる。これを忘れるとみんなピンぼけになる。


自画像 国際交流

シャッターはなんとも頼りない。もともと1/200までしかないシンプルなレンズシャッターなのだが、レリーズがはなはだ頼りない。でも、撮ってみればご覧の通りで、けっこうまともな写真が撮れる。

巻き上げは、巻き上げノブとカウンターの間にあるロック解除ボタンを、押しながら巻き上げる。少し回して解除ボタンをフリーにすると、1コマ巻き上げたところでロックされる。


黄葉 秋の少女

このカメラの難関は巻き戻しにある。シャッターボタンと間違えそうな、大きなロック解除ボタンを押しながら巻き戻しノブを回しても、巻き戻せない。一瞬ドキッとして考える。パズルだ。そして秘密を発見した。なんと巻き上げノブを引き上げて、巻き上げスプールのロックを外さないと、巻き戻せないのだった。この意表を突くメカは、お国柄かなあ。



ベガ 2

エタレッタを作ったETA社は、1948年チェコスロバキアに共産党政権が出来ると、メオプタ社に吸収され、さらにメオプタ社から分離して、Druopta社と合併させられる。時代に翻弄された会社らしい。
   左:VEGA2+DRUOPTAR   右:VEGA3+ETAR

写真の左は、1949年Druopta社から発売されたVEGA 2で、シャッターはエタレッタと同じETAXA、レンズはDRUOPTAR 50mm F4.5。右は1957年のVEGA 3でシャッターはChrontax、レンズはETAR 50mm F3.5になっている。ファインダーが少し大きくなったのと、アクセサリーシューがついたことが改良点だろうか。いずれもマガジンに巻き取っていく方式で、巻き戻し機構は省略されている。

沈胴式レンズやフィルムカウンターなど全体の雰囲気はエタレッタに似ているが、わずかに横幅が大きくなり、巻き戻しノブを無くしたためシンメトリーが崩れ、エタレッタで感じた気品と精密感は若干薄れたように思われる。私のところに来た写真の2台は、タイのバンコックから海を越えてきた。残念ながらVEGA3はシャッターが故障していた。


このカメラは巻き戻し機構が無い。いわゆるダブルマガジン方式で、巻き取り用のマガジンに巻き取っていく。キャノン用の古いマガジンを流用してみたら、うまく入った。これも新しい経験である。実際に撮影してみると、左のノブで巻き上げるというのがどうも馴染めない。チェコの人は左利きが多かったのであろうか。

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東京スカイツリー 514M 空に向かって立つ
初めてのダブルマガジン。おっかなびっくり撮影した。マガジンのせいか横に筋が入る。しかし、カメラそのものは悪くない。シャープではないが自然な描写で良い感じだ。

雷門 仲見世
正月準備で賑わう浅草。中国人が多いなあ。それも高校生ぐらいだろうか。修学旅行かな。

五重塔 新装なった観音堂
工事中の覆いが取れて、新年を迎える観音堂。行き交う人も笑顔だ。それにしてもこのカメラの巻き上げは固いなあ。

オプティネッタ

チェコ最大の光学メーカーメオプタ社のOPTINETA。1959年の発売だから、エタレッタやベガに比べるとだいぶ新しい。サイズもだいぶ大型になったが、渋いミリタリーグリーンの張り革と、Optinetaと筆記体で刻印されたフロントデザインが粋である。

エタレッタ   オプティネッタ ベガ

このオプティネッタというカメラは、情報がほとんど無い。マッケオンのカタログのメオプタ社の欄にも1行も触れられていない。メオプタ社のパンフレットによると、1959年から2年間生産されたとある。

ライカタイプの有名なオペマが生産打ち切りになった後で、このカメラの生産が始まったらしい。東欧経済圏の中で、高級機はソ連や東ドイツに任せて、チェコは大衆機を作れと、ソ連中央の指示命令があったのだろうか。非常なレア物で、市場にはほとんど出てこない。

シャッターはMETAXで1/400までと、スローシャッターがついた当時としては本格派だ。レンズはフレクサレットやオペマで評判が高かったBelarで、45mmF3.5がついている。ファインダーは非常に明るく、よく見える。

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冬の小径 武蔵野の冬
やはりベラーはよく写る。武蔵野の冬の雰囲気が良く出た。光が柔らかい。

羅漢像1 羅漢像2
目測の近接撮影もだいぶ慣れてきた。蕎麦屋の店頭の羅漢像が表情豊かだったのでレンズを向けたが、柔らかいトーンが出て面白い。

花地蔵 藁ウサギ
かなり厳しい条件でも良く粘る。ハイコントラストの花地蔵、フラッシュ無しの室内撮影だが、これだけ撮れれば文句はない。


オペマ 2

メオプタ社はもともと写真引伸機や双眼鏡のメーカーであった。1939年、2眼レフのフレクセッテを発売し、カメラメーカーとしての地歩を固める。戦後フレクサレットと名前を変えるが、写りの良さで非常に高い評価を受ける。1949年、35mmフィルムを使い、レンズ交換が出来る高級機オペマを投入する。
Opema 2+Belar 45mmF2.8

Opemaは距離計と連動するオペマ2と、単眼のオペマ1がある。レンズ交換が出来るが、マウントがライカと同じスクリューマウントなのに、なぜか口径が38mmでライカとは互換性がない。画面サイズも24×32mmと寸足らずで、40枚撮りになる。ライカの影響を極力排除したため、かえって市場を狭めてしまい、短命に終わった悲劇のカメラでもある。

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巣鴨の六地蔵 江戸川にて

えのころぐさ バラ

谷津バラ園 ネコとカメラ

私のところへやってきたオペマは、非常に美しい。フランスのフォカもきれいなカメラだと思ったが、このオペマはそれ以上だ。クローム仕上げの質が高い。ファインダーが見やすいのもオペマの優れた特長である。プリズムを使った距離計は分離がクリアーで、このファインダーは本家のバルナックライカ以上だと思う。ライカ風でありながら、コンタックス風の裏蓋脱着式で、38mm口径のレンズマウントと共に、ライカからの脱却を必死に主張している。

画面サイズも24×32で、初期のニコンと同じ40枚撮りである。巻き上げが普通と逆で、反時計回りに巻き上げる。これはやりにくい。何もこんな所までライカ離れをしなくてもよいのに。巻き戻しはライカと同じように、シャッターボタンリングをR方向に回すのだが、かなり力を入れて押し込みながら回さないと、ロックが外れない。ライカと同じように軽く回して巻き戻そうとしたら、巻き戻せない。一瞬故障かなと思った。

Belarは青みがかったコーティングが美しいレンズで、シャープではないが立体感を良く描写するレンズだ。


クラシックカメラの物語