世界の妖しいカメラと マイクロフォーサーズの物語

4.世界最小の35mm判一眼レフの巻      2009.12.28

「いままで発売された35mm判カメラの中で、世界最小の一眼レフはどれ?」
と聞かれたら、あなたはなんと答えますか?
オリンパスの
OM−1でしょうか。それともペンタックス*istかな。

違うのです。世界最小の一眼レフは(レフですからミラーがあるのですよ)、なんと50年前に発売されたロシアのカメラなんです。何でもコピーしてしまう模倣天国のお国柄ですが、中にはこんな小粋なデザインを送り出すこともあるんですね。ロシアという国の奥深さを、ちょっと垣間見るような、そんなカメラです。

その名は
Zenit。1952年、KMZ(クラフノゴルスク工場)が世に出した意欲的な一眼レフです。Zenitに遅れること7年、ようやく1959年になって、ニコン、キャノンが最初の一眼レフを世に出します。ロシアカメラ恐るべしですね。

カメラに詳しい人なら、東ドイツのイハゲー社のエクサはどうだと云われると思いますが、たしかに寸法だけ見れば、エクサの方が若干小さいのは事実です。しかし、エクサの方がずんぐりしていて、スリムさではキュートなZenitにはとてもかないません。実体積はZenitの方が小さいはずです。

Zenitは昨今のデジタル一眼と比べても、その小ささは際だっています。マイクロフォーサーズのパナソニックGF1や、オリンパスE−P1などコンパクトで人気の機種に比べても、けっしてコンパクトさではひけをとらないのです。


世界最小の35mm判一眼レフ Zenit
Zenit C
最初のZenitにシンクロ接点を加え
1955年に発売された。
ライカにミラーを載せたような形だ。
ルミックスGF1と並んで
GF1と並べると小ささが際だつ。
重量はZenit594g、GF1は462g。
Zenitはずっしりとくる。

この小さくてキュートな一眼レフが欲しくて、eBayを探していたらこれを見つけた。落札してから10日間で着いた。発送元はカザフスタンであった。Zenit CのCはキリル文字で英語のSにあたる。英文ではZenit Sと表記されることもあるから要注意だ。

Zenit Cには、もうひとつ特徴がある。それはレンズマウントが39mmであることだ。そう、ライカLマウントと同じなのだ。ただ、フランジバックが45.3mmと、ライカLマウントの28.8mmより長いので、レンズの装着は出来るが、近接撮影しかできない。ということは、ビゾフレックスなどを使わずに、ライカのレンズでマクロ撮影が出来る唯一の銀塩カメラだ、ということもできる。

逆にZenitに着いているレンズをルミックスに付けたらどうか。そのままだと、もちろんピントが合わない。これはなんとかしたい。しばらく物狂おしい日が続きそうだ。


まずは、標準レンズで

標準でついてくるインダスター50 50mmF3.5で早速撮影開始。このレンズはドイツのツアイス社の名玉テッサーのコピーだと云われている。重さはたった63gしかない。

撮影して最初に戸惑うのは、シャッターを切ったあとミラーが戻らないことだ。ブラックアウトしたままなのだ。考えてみれば、シャッターを切ってしまえば、あとは見えなくても問題はないのだが、最初はやはりびっくりする。フィルムを巻き上げるとシャッターがチャージされ、同時にミラーが元に戻る。
(クリックすると大きくなります。)
フィルムはFUJIのSuperia PREMIUM400、現像とCDは45Digital Conびni西船橋店。
F16 1/125 iso400
高圧鉄塔
F5.6 1/250 iso400
法華経寺

Industar50 50mm F3.5 は、3群4枚構成のテッサータイプのレンズである。M42マウントのパンケーキIndustar50-2が有名で、日本市場にも大量に出回っているが、ゼニットマウントはさすがに少ない。小型のZenit Cに良くフィットしている。

F8.0 1/500 iso400
お面
F5.6 1/250 iso400
仲良し
F5.6 1/250 iso400
ネコA
F8.0 1/250 iso400
ネコB
F8.0 1/250 iso400
中山大仏
F8.0 1/125 iso400
観音像
F8.0 1/500 iso100
水元公園にて
F8.0 1/500 iso100
丸の内にて

ライカマウントのレンズを付けて

同じ39mm径のエルマー50mmF3.5を付けてみた。無限遠は合わないが、ライカではビゾフレックスを付けなければ出来なかったマクロ撮影が、いとも簡単に出来てしまう。これは驚きだ。ライカでの最短撮影距離は1mだが、20cmぐらいまで寄れている。

エルマーを付けゼニット

(クリックすると大きくなります。)
F5.6 1/125 iso100
未央柳
F5.6 1/60 iso100
ドクダミの花
F5.6 1/125 iso100
ネコ
F5.6 1/500 iso100
タチアオイ
F4.0 1/500 iso100
バラ1
F4.0 1/500 iso100
バラ2


ゼニットのM39レンズをルミックスGF1につける

ゼニットC
のレンズはライカLマウントと同じ39mm口径なのだが、フランジバックが違うのでルミックスGF1につけてもピントが合わない。どうしたものかと考えていたら、ディスカバーフォトから、M39をM42に変換するリングが販売されていた。これとM42−M4/3アダプターを組み合わせれば、ゼニットマウントGF1で使えるはずだ。早速注文した。

M42マウントとゼニットのM39マウントは、フランジバックがほとんど同じだ。無限遠も出るはずである。

インダスター−50 50mmF3.5(右)
ライカL−M42アダプター(中央)

ディスカバーフォト製2,480円。
M42−M4/3(左)と合わせると
GF1やG1で使えるようになる。
ルミックスG1とゼニットのインダスタ−
これで無限遠からピントが合う。
このインダスター−50は非常に小さい。
GF1とのバランスも悪くない。

(クリックすると大きくなります。)
F8.0 1/2000 iso400
高圧鉄塔
F5.6 1/125 iso400
一輪車
F4.0 1/160 iso800
東京駅地下街
F4.0 1/200 iso800
八重洲地下街
F4.0 1/80 iso800
幸せの子豚
F4.0 1/80 iso800
ライブステージ

ピントは合わせにくいが、非常にクリアーで発色も好ましい。玩具のような外見からは想像も出来ない描写力だ。開放近くでも十分にシャープだ。ロシアのレンズは侮れない。


ソビエトカメラを使うのは一種の修行の世界である。 中村陸雄

ソビエトカメラに精通した中村陸雄氏が著書「ソビエトカメラ党宣言」で書いておられる。

「ソビエトカメラを使うのは一種の修行の世界である。」と。

忍耐とか辛抱とか我慢とかという次元ではない。トラブルを期待し、それを楽しむ心境でないと、旧ソ連圏のカメラとはつきあえないというのだ。さてその実態はどうだろうか。

eBayで落札したゼニットCは、最初はカザフスタン、次はウクライナから送られてきた。国は違っても発送スタイルはそっくりだ。ご覧のように、よくこれで届くものだと感心するぐらいの、乱雑な宛名書きだ。中身が思いやられる。

カザフスタンから来たゼニットは、ミラーの開閉とシャッターのタイミングが合わないらしく、撮影画面にミラーの影が写る。1/125だけかろうじて使い物になる。

ウクライナから届いたモノは、フィルム送りが不調で、ボディーの中でフィルムがズタズタになってしまう。

うーん、これは楽しい。修行だ,修行だと題目を唱えながら、ヤフオクで日本からの出品があったので、3台目を落札した。さすが日本だ。梱包は丁寧だし、ロシアカメラとのつきあい方を丁寧に教えてくれた。いわく、フィルムを巻き上げる前は、絶対にシャッター速度を変更しないこと。いわく、シャッターダイアルは表示の位置にきちんと合わせること。これをしないと故障するそうだ。

さいわいにして、3台目のゼニットCは、快調に動いている。1台の単価が安いので、3台買っても「まあ、いいか」ですむけど、ソビエトカメラの泥沼は奥が深そう。


妖しきカメラとマイクロフォーサーズの物語
1.金色の偽ライカ 2.本物より高価なコピーライカ 3.ダビデの星とプラクチカ
4.世界最小の一眼レフ(1) 5.潜望鏡で覗くライカ 6.裏窓を覗く左利き一眼レフ
7.世界最小の一眼レフ(2) 8.哀しきコンタックス 9.不合理なドイツカメラ
10.共産党革命記念ライカ 11.孤児院で作られたライカ 12.不当に安いキャノン

ルミックスGF1を5倍楽しむ法 オールドレンズを楽しむ 35mmカメラの世界史 クラシックカメラの物語

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